邱永漢の「予見力」

邱永漢の「予見力」 (集英社新書)
直木賞作家であり、「株の神様」として一世を風靡し、今は事業家として幅広く活躍している邱氏。
本書は氏が頻繁に行っている中国投資視察旅行に同行したときの様子と「世見力」について氏にインタビューした内容が主に書かれている。

一口に言えば、日本が歩んできた道を中国も30年くらい遅れで歩んでいることである。だから、ターゲットとする中国人の層の収入を見ながら、日本で流行っている物で、それらの人が好みそうなものを中国で展開すれば、繁盛するということ。

ちなみに、氏は現在農業に注目していて、コーヒー農園を経営していて、肉牛の牧場に興味を持っている。もちろん、氏が中国国内にいくつもビルやレストランを持っているのはいうまでもない。

問題は商売が繁盛してくると、いろいろな横やりが入ってくること。同じようなコンセプトでしかも価格が安い店が近くにすぐできたり、当局が何癖を付けて多額の罰金を請求してきたり。

だから中国に進出するときは、しっかり準備して「絶対成功するぞ−」と意気込んでいくよりも、小さく始めていろいろ失敗しながらノウハウを修得して、大きく育てていった方がいいみたい。そうしているうちにいいパートナーに巡り会えたり、当局の役人と仲良くなれたりして、事業がうまく行くみたい。

本書を読むと、中国のスケールが感じられる。東京並の人口の町がいくつもあるし、中間層の人口は2億人ときたもんだ。

もう一つ本書を読んで参考になったのが、邱永漢という人のやり方だ。一つはさっきも述べたように、とりあえずやってみて、失敗しながらノウハウを蓄積すること(もちろん事前にその分野の本や参考資料はたくさん読んでいるのはいうまでもない)。

もう一つは、惜しげもなくノウハウを他人に教えて、自分の周りに人を引きつけていること。今回の視察旅行も牛肉の専門家、農業の専門家も多数同行して、ここで牧場をやってもうまく行くかどうか、見てもらっている。氏はその人達の意見を尊重しながら、事業をやるかどうか判断していることが本書から伺える。こうやって失敗するリスクを押さえている。

極端に言えば、一端成功すれば、チャレンジ精神があって独善的にならない限り、自動的に資産が増えていくのだな−というサクセスストーリーを本書から垣間見ることができた。

本書は成功本の一つです。