社会主義化するアメリカ

サブプライム問題とは何か アメリカ帝国の終焉 (宝島社新書 254)
この本も米中を中心とした世界経済の流れを分りやすく説明しているいい本でる。
あとがきによると作者は最初700ページも書いたらしい。それを200ページまで圧縮したそうです。だから非常にまとまっていて分りやすく読みやすい。しかも価格は680円。ぜったい買いだ。

本書は中国と米国を中心として、バブル崩壊に至った流れ、現在の動きが書かれています。よって中国と米国の両者を対比することができ、民主主義の国である米国そして日本が、社会主義国である中国よりも、今後の国政運営が難しいことがよく分ります。

本書によると中国の胡錦涛国家主席はもともと水力エンジニアだっただけあって、冷静に数字を積み重ねていく理系の顔と、中国共産党のトップまで上り詰めれるだけの政治家としての実力をもつ、非常にバランスの取れた政治家だと評価している。

胡錦涛は2003年の就任直後から「科学的発展観」という言葉を用い、外需一辺倒の中国経済ではいずれ行き詰まるので、内外需のバランスの取れた国に変えることを目指してきたらしい。そして現在は4兆元の財政出動をインフラ整備、農村支援、社会保障を中心に行っている。それぞれの意味は

インフラ整備:内陸部を中心に行われている。失業者対策も兼ねている。
農村支援  :家電、自動車の購入補助。
社会保障  :現在10%台の普及に留まっている健康保険を11年には90%台にする。

国民に生活の安心感を与える事によって、現在30%台の貯蓄率を減らして消費につなげようとしている。
また、公害をまき散らしている劣悪で過剰な設備を整理整頓し、社会的に不足している分野のみ重点的に国家の資金を使って、高い効率性、資源節約、環境に配慮した社会を作ろうとしている。

中国は未来の発展のために超現実的な政策目標を掲げて、突き進んでいるのである。

逆に米国や日本は民主主義だけあって、利害関係者の調整に戸惑っている。米国はオバマ大統領が上手に頑張っている。選挙期間中はGMを潰さないといいながら、大きな混乱も起こさず上手に破綻させた。医療保険制度改革には手こずっているようだが、何とか成し遂げてもらいたいものだ。

日本は最悪である。日本郵政は再び国有化されようとしているし、教育改革が叫ばれている中、教員免許の更新制度を廃止使用としている。今まで苦労して行ってきた改革をもとに戻そうとしている。私も鹿児島の田舎で2年間過ごしたが、郵便局が民営化して困ったことは一度もない。再び国有化する意味が分らない。それに郵貯簡保の莫大な資金が国有化によって効率的に運用されなくなると思うと、日本国民にとっては大きなマイナスとなるのではないか?

本書を読んで一番印象に残ったのは「多数の暴政」という言葉である。
選挙に勝利するために人気取りのバラ撒き政策が実施される。その資金は赤字国債で賄われ、多額の財政赤字を抱えると、国際社会からは見放され、その国の通貨は下落する。そして物価が上がる。政府は上昇した赤字国債の利払いに追われ、国民への福祉は貧弱になる。

最近のニュースを見ていると、鳩山さんもこのことは分っているようだ。問題は利害関係者を上手に調整できるかだけだ。我々の未来のためにがんばって。