脳力のレッスン

脳力のレッスン―正気の時代のために
日本総合研究所寺島実郎氏の本である。「脳力」とは「物事の本質を考え抜く力」の事で、寺島氏が現代の日本人に最も欠けている能力として、この言葉が用いられている。本書は2002年から2004年にかけて岩波書店の「世界」という雑誌に、世界で起きていることと、それに対する日本の反応についての連載記事をまとめたものなので、今回のサブプライムショックについては書かれていない。

本書の2分の1は、米国のイラク侵攻に対する批判と、日本の盲目的な米国追従に対する批判について、幅広い視点から書かれている。残りは「エンロン問題」など当時を賑わした事件に対する著者の考察や、低迷を続ける日本社会についての著者の考えが書かれている。

今本書を読むと、今後訪れる米国1極支配から無極化への時代の流れの中で、各日本人が心構えを変えなければならないことを痛感させられる。

今までは、米国に追従していけば、それなりの豊かさを享受することができた。しかし、米国の力が弱まる今後の世界では、世界で起きていることを真摯に見つめ、考え、そして日本、アジア、世界の利益のためにどう日本は行動すべきか、真剣に考えなければならない時代が来たのである。

これらのことを政治家、官僚そして経営者だけに任すのではなく、我々自らも真剣に考えて、日本のプレゼンスを高める努力をしないと、猛烈な勢いで少子高齢化に進んでいる日本に明るい未来はない。

今の麻生政権の場当たり的な対応を見ていると、情けなくなってくるが、政治家と国民のレベルはリンクするらしいので、今の日本人の姿を反映しているのだろう。

本書を読むと以上のことを思わずには居られなくなる。価格が2,200円で高価なのが少々ネックだ。とても分りやすくて、読みやすい本なので、早く文庫本になって多くの人に読まれることを望む。