中国旅行記 最終章

2010年1月1日、JAL616便は上海浦東国際空港を定刻通り17:50に中部国際空港へ向けて出発した。上海は大変穏やかな正月だが、名古屋は寒気の影響で風が強く、もしかしたら関空や成田への着陸もあり得るとのことであった。

水平飛行に入りベルト着用のサインが消えたので、幸運にもエコノミーからランクアップされたビジネスクラスの重厚なリクライニングシートの背もたれを少し倒し、10日間連続で着たために服装はかなりくたびれ、靴もかなり汚れているが、態度だけはいっぱしの金持ちのつもりで足を組み、ふんぞり返りながら、元旦の日経新聞を読んだ。

新聞の内容は、民主党が今後もバラマキ政治を続けると、いずれ日本国債が暴落して財政危機が訪れること、日本は世界で真っ先に少子高齢化社会に突入するので、この問題に対する解決策を見つけ、世界の模範となるシステムを構築する必要がある等の内容だった。今回の中国旅行の体験より、この日経新聞の内容について、とても納得することができた。

中国は文化的、衛生的な面から見れば、まだまだ発展途上国という感じがする。これは経済的余裕がなければそこまで意識が回らないのは日本も同じである。仕事柄日本の食品工場を回ることが多いが、経営がうまく行っていないところは概して汚いところが多い。

しかし経済的観点から見れば、中国はとてもまっとうな国だというのが今回の旅で得られた結論である。共産国という感じがぜんぜんしなかった。今回の旅はすべて自分で手配して行ったが、トラブルは全くなかった。予約が入ってないということもなかったし、勘定やおつりをごまかされたこともなかった。注文した料理はきちんと届くし、タクシーでも極端に遠回りされてぼったくられることもなかった。寝台列車も1000km以上走って定刻より10分しか遅れなかったことも驚きだ。

また中国は英語が通じないと言われていたが、その割には英語が話せる人が多いと思う。都会に限っていえば、日本よりも割合的にはかなり多いのではないか。しかも日本人が良く行くお店の店員さんはけっこう日本語が上手な人がいて驚いた。日本人でも日本語は難しいと思うのに、外国人が勉強しようとすると、とても大変だっただろうと思う。

昨年私も転職のために英語を一生懸命勉強したので分るのだが、語学の勉強は非常に根気のいる作業で、とても大変だ。10代の頃さんざん英語を勉強したのに、改めて勉強し直すだけでこの大変さだから、一から日本語を勉強するとなると非常に大変だと思う。つまり中国人は真面目で頑張る人が多いということが言えるのではないか。

さらに今回ユースホステルで泊まって感じたのは、中国人、韓国人、台湾人、シンガポール人など多くのアジア人が他国の人や欧米人たちと英語で雑談したり旅の情報交換をしたりして、積極的にコミュニケーションを取っていたことである。優秀なアジア人はみんな英語の重要性を理解して、一生懸命勉強しているのだろう。非常に焦りを感じた。

上海のユースで一緒だった中国人のヤンとの会話でも思ったが、英語もペラペラで頭も良く、自分の国について客観的に見るとこができる人間が、私よりも断然低い給料で働いているのを見ると、仕事が日本から中国に流れていくのも納得できる。ブルーカラーの仕事だけでなく、総務などホワイトカラーの仕事も中国に委託されるのも時間の問題だろう。なんせ彼らは漢字が読めるので、日本語の定型的な書類なら、ちょっと訓練すればすぐ理解できるようになると思う。現にヤンも私の地球の歩き方を見て、開園時間や入場料などの情報は理解することができていた。

1980年代、アメリカの製造業が日本に追い上げられたために行き詰まり、JAPANパッシングとして日本車をハンマーで叩いて壊したように、今後日本の衰退が明らかになるにつれて、中国に対する嫌悪感が増大して中国パッシングが起き、日本人の対中感情がいっそう悪くなる時期が今後来るかもしれない。

私も超日本的企業に勤めているので、中国シフトの流れにながされて給料が徐々に下がっていくのは間違いない。自己研鑽して自分の価値を高めると共に、引き続き世界経済に関する勉強も行って投資技術を向上させ、給料の下落分を投資の利益で補うしか自衛の方法はなさそうだ。

そして日経新聞が言っているとおり、日本は高齢化社会でも利益がでて、豊かな社会が維持できる社会システムをいち早く構築し、自動車や電化製品の分野だけでなく、その分野でも世界でトップの地位を築く必要があると思った。



地球の歩き方の最後の方に書かれている中国の歴史を読んでみると、中国の清の時代と日本の江戸時代が同じような時期に始まり、そして終わっている。そしてその後の歴史が現在の中国と日本の経済的な差をもたらしたことがよく分る。

寺島実郎氏の著書「20世紀から何を学ぶか」によると日本は江戸時代が終わって明治になってから、名著「坂の上の雲」の主人公で日露戦争で活躍した秋山真之福沢諭吉夏目漱石などの有名人をはじめ、その他外交官や官僚など、その時代のキーマン達が欧米列強の脅威を認識し、ヨーロッパから科学技術、政治、法律や軍事などさまざまな先端知識・技術を持ち帰り、日本がこれらの国に占領されないように必至に富国強兵策を支えた。これが上手く行き過ぎたために調子にのり、アジアやアメリカまで攻め込んで、最終的には自滅するのだが、この富国強兵策が今の日本の繁栄の基礎を作ったのは間違いない。

それに対して中国も清の末期に「洋務運動」「変法運動」というのが起き、西洋の制度を導入して清の改革を進めようとしたらしいが、失敗に終わったようだ。その後、西洋の列強各国による半植民地化、辛亥革命日中戦争、日本軍の中国占領、1945年の日本敗戦以後は国民党と共産党による内戦、共産党が政権を取ったあとは共産党内部での権力闘争、そして毛沢東による文化大革命で多くの中国知識人に対する迫害が行われ、中国は1970年代前半まで混乱の時代を迎えることとなる。

よって現状だけを見て中国が日本より劣っていると判断するのは間違いであり、中国はたまたま混乱の時代が長かったために立ち後れただけある。しかし、現在その遅れを取り戻すように猛烈な勢いで成長を続けている。

逆に日本はここ15年、首相がころころ変わり、国の進むべき道が定まらない。このままではかつての中国の二の舞になるのではと不安になる。


上海での大晦日の夜、たまたまユースのドミトリーで同室になった韓国人、中国人、香港人そして日本人である私の4人がビールを飲みながら、日本のテレビ番組番組や映画についての話題で盛り上がった。話している言葉が英語なだけで、話の内容については日本人同士で話しているのと遜色なかった。それぞれの国によって考え方や習慣は異なるだろうが、多くのアジアの若者が日本のテレビを見て育ってきていることを考えると、日本人にとっては欧米人よりもアジア人の方が、文化的背景を共有できているので親しみがもてると思った。

今後経済の中心が欧米からアジアに移ると言われている。きっと10年後には多くのアジアの人達、そして世界の人達が、Good Lifeが送りたいという共通の目的のもと、上海、北京、香港、シンガポール台北、そして東京で一緒に仕事をする時代になっているのだろう。その時に自分もその仲間に入れるよう、今後も自己研鑽に励みたいと思った(なんせ今回の旅で痛感したのは私の英語力のなさなのだから・・・・みんな英語上手だし・・)。



今回の旅で出会ってメールアドレスを交換した人達
Jeeyoung(韓国)、SuJin(韓国)、Chak(香港)、Yang(中国)、Kim(韓国)、やまろうさん(日本)

そして今回の旅で私に話しかけてくれた多くの人達。
みんなありがとう。
みなさんのおかげで今回の旅は大変有意義なものになりました!

謝謝