中国旅行記10 8日目「中国人と語った3時間」

2009年12月30日(水)の夜

宿にもどると昨日から同室の中国人が「今日はどこへ行ってきたの?」「何を食べた?」と話しかけてきた。

上海の次は蘇州や北京に行くというので、「私が泊まったユースはどうだったか?」など会話がどんどん広がっていった。

彼の名はヤンといい、広東省でタックスコンサルタントの仕事をしているそうだ。クライアントに日立などの日本企業がいるということで、英語が下手な日本人との会話に慣れている。つたない英語しかしゃべれない、私の話したい意図を上手に汲んでくれ、会話をリードしてくれた。

中国では日本のドラマを結構放送しているらしく、ヤンは日本の芸能人についても詳しい。中国では深田恭子が人気があるそうだ。深田恭子がドラマで援交をやる役をやっていたらしく、「日本では援交がはやっているのか?」と聞かれて「ごく一部の人がやっているだけね」と必至に弁解した。

次に話題が日本と中国の物価の違いなど経済のに移った。中国の大都市では住宅の価格が非常に上がっていて、家を買うのが大変だそうだ。中国では経済の急成長に伴う物価の上昇が激しいので、ただの貯金だとお金の価値が目減りしてしまうらしい。「つまり100元で今年100個買えたものが、来年には90個しか買えなくなる」とヤンは分りやすい例をあげて説明してくれた。「それで金持ちが不動産にどんどん投資するから家の値段が上がるんだ」と怒った様に言っていた。

また中国では解雇が容易にされるので、高額なローンを払い続けるのはすごいプレッシャーだともしきりに言い、「日本はなかなか解雇されないから羨ましい」と最後に言った。

私とヤンの労働条件を比較すると、日本人である私がいかに恵まれているかがよく分る。日本は中国に比べて祝日が多い上に、有給がヤンの2倍もらえ、さらに夏休みと正月休みももらえる。ヤンの会社では旧正月の休みも有給に含まれているらしい。

電化製品はやはり日本製のものが中国でも人気があり、またiPodなんかも中国では偽物が多いので、会社の同僚が東京に出張に行ったときに秋葉原で買ってきてもらったそうだ。価格も中国で買うよりも東京の方が安いらしい。「日本が羨ましい」としきりに言った。

私が「でも中国のGDPが日本を抜いて、世界2位になったじゃやないか。中国も金持ちになっている」と言ったら、「あれは政府が嘘をついている」とはっきり言ったのには驚いた。中国では各省ごとに経済成長のノルマがあるので、みんな水増しして報告しているらしい。中国の経済指標はあてにならないとは聞いていたが、中国人、しかも27歳の青年の口からそのようなこと聞くとは・・・・中国政府は国民からも信用されてないことが窺えた。

そして話題はそれぞれの対日感情、対中感情に移っていった。ヤンは「日本人は中国人を差別しているだろう」と笑いながら言ったので、私は焦って「なんて言おうか?」と頭をフル回転させた。そして「多くの日本人は中国のことを誤解している。それは中国が輸出した食品に農薬が含まれていた事件があったこと。そして中国人は日本人のことを憎んでいると多くの日本人が思っているから」と答えた。

ヤンは「その農薬の事件は日本で入れられた」と言った。中国ではそのような認識が一般的なのだろう。

中国人が日本人を恨んでいることについては「年配の人でそう思っている人はいるかもしれないが、多くの人は日本人を恨んでいない。中国で日本語は英語の次に人気がある」と言った。ヤンも大学の時に日本語の授業を選択したそうで「最初は簡単だけど、次第にとても難しくなり、途中で挫折した」と言った。また「中国では歴史の教科書の内容は政府の意図によってコロコロ変えられる」とこれまた驚きの発言をした。(中国政府は相当信用されてないなー)

私も嬉しくなって「私も今回の旅行のために中国語を少し勉強した」と中国語会話入門の本を見せたら、ヤンも嬉しそうだった。やはり自分の国の言葉を勉強してもらえるのは嬉しいものである。

私は「日本は少子高齢化で経済が弱くなっているし、政府が膨大な借金を抱えているので、我々は今後多くの税金を払わなくてはならない。我々の経済力は今後低下する」と日本の現状を説明し、「ぜひ中国人にもっと金持ちになってもらって、日本に買い物に来て欲しい」と言ったら、嬉しそうに「OK!OK!」と言いながらも、「VISAがなかなか取れない」とボソッと言った。

今、日本人が短期の海外旅行するのにVISAが必要な国は非常に少ないし、VISAが必要だとしてもその国の大使館に申請すれば、まず取得できるだろう。行きたいところはどこでも行ける。しかし、中国人が日本を旅行しようとすると日本大使館にVISAを申請する必要があるし、申請しても必ず認められるとは限らないらしい。同じ中国である香港にも自由に行けないそうだ。

日本にいればけっして感じないが、「国力の違いは非常に大きい」ということを改めて認識することができた。私はヤンよりも労働時間が少ない上に、給料は何倍も貰え、強い円のおかげで海外の行きたいところはどこでも行ける。「この有り難みを無駄にしないようにしよう」と思った。

ヤンとの会話は3時間にも及んだ。英語の得意なヤンが10しゃべって、私が1しゃべるという感じだったが、非常に疲れた。英語でこんなに長時間会話したのは初めてだ。


だがヤンとの会話で中国に対するイメージが大きく変わった。


政府のプロパガンダに流されることなく冷静に現実を見るめることができる若者がいる・・・・・