中国旅行記2 初日「いざ北京へ」

 10月に中国行きを決め、さっそく飛行機のチケットを捜したら、JALのホームページで北京入国、上海出国というチケットが「なんと5万円ポッキリ!」というのを見つけた。この時期チャイナエアラインでも5万以上するので、このJALのチケットは「買いだ」と何も考えずに即買いした。倒産しかかっている会社に5万も先払いするとは、自称投資家として非常に恥ずかしいことだが、その時は嬉しさのあまりそんなことは微塵も考えなかった。多分10月に払った私の5万がJALの苦しい台所事情の多少の助けとなったのだろう。そのお礼として帰りの座席がビジネスにランクアップされていたことから、このことが伺える(本当の話です)。

中国行きが決まって、職場で休みの申請をすると周りから「なぜ中国に行くの?」とさんざん言われた。職場内での中国に対するイメージはよくない。まさか「中国に投資するために、中国の様子を窺いに行く」とは言えるわけがなく、適当に返事を濁していたら、なかには「どうせ女でも買いに行くのだろう」とあらぬ疑いをかけられたりして、本当に迷惑千万である。



12月23日(中国滞在1日目)日本・中国共に晴れ   1元=約14円(滞在平均) 
関西空港発JAL785便北京行きは定刻通り離陸した。機内は満席。となりには大学生のグループの一人の女の子が座っていた。飛行機が日本海に抜け、水平飛行に入るとさっそく機内食が配られた。私は2時間後に迫っている共産国中国への入国に備えてビールを頼むことを自重し、飲み物はオレンジジュースを頼んだのだが、隣の女子大生はフライトアテンダントに「飲み物は何にいたしますか?」聞かれたときに、即答で「ビール」とぶっきらぼうに答え、アサヒスーパードライを旨そうに飲んでいた。

朝鮮半島を横切り、予定通り現地時間12時50分に天気はいいがスモッグで霞んで見える北京首都国際空港に到着。飛行機を降りた途端、異臭と目にかすかな刺激を感じる。「これは子どもの頃、四日市で感じた空気だ!」と直感的に思った。

荷物が出てくるのを待っていたら、初めての海外旅行でしかも一人で来た、という隣に座っていた子とは別の女子大生にいきなり「私たちの荷物はここに出てくるのですか?」と不安げな様子で話しかけられた。私も中国は初めてなのに、「北京の空港では荷物が出てくるのは遅い」とか「税関で申告するものが何も無い人はグリーンのマークの通路を通る」など地球の歩き方仕入れた知識をあたかも経験者のように、知ったかぶりで語ってしまった。私の悪いクセである。

税関を出た後、中国銀行で両替した。中国では中国銀行が一番レートがいいというが、空港では手数料60元も取る。両替する前にちゃんと説明されるのだが、このときは「まあ仕方ないか」と思いここで両替した。しかし、旅をしていくうちに60元というお金が中国の物価水準からするととてつもなく「法外的に高い」ということが分ってくる。

北京市内へは最近開通した電車(機場快軌)で向かうことにした(25元)。到着した電車にはけっこう人が乗っており、しかもあんまり人が降りない。ホームは終点駅のどん詰まりで、列車は私を乗せて反対方向に向けて出発した。10分後に次の駅に到着し、ほとんどの乗客が降りた。「第2ターミナル」という駅名を見てその謎が分った。私が乗ったのは第3ターミナルで第2ターミナルの隣にある第1ターミナルが国内線専用なため、ここで多くの人が降りたのである。しかし第3ターミナルと第2ターミナルの間が電車で10分もかかるとは「どんだけ空港がでかいんだ!」と中国の広さをあらためて実感した。

機場快軌の終点駅「東直門」で降りた。エスカレーターで地上に出る。異臭がする。北京市内は空港よりももっと空気が悪い。「こんな空気の所で10日間も過ごせるのか?」と不安になる。ここからタクシーで予め予約しておいた「東堂客桟」という北京でも人気のあるユースに向かおうと思っていたが、予約したときにメールで送ってくれた空港から宿への行き方に書いてあった107番のバスが目の前にあったので、北京でのバスの乗り方についてのまったくの予備知識はなかったが、思わずそれに飛び乗ってしまった。

入り口に1元と書いてあったので、運転席の隣にある料金箱に入れた。メールでは6つ目のバス停で降りると書いてあったが、日本の感覚で言うと乗客いなければそのバス停は通過するので6つ目だけでは分らない。メールでは一応英語でバス停名が書かれていたが、中国語での発音をそのまま英語にしているだけなので、この英語がどのバス停を示しているのか分らない。日本人にとっては漢字で書いててくれた方が理解できる。それに中国ではバス停の間隔がけっこう長い。「これは降り損ねたらけっこう歩く羽目になるな」とバスに乗ったことを後悔した。

しかし北京では必ず各バス停に止まること、そしてきちんと前にある粗末な電光表示板に中国語と英語で次のとまるバス停名を表示してくれることに気付いた。また降りるときは日本みたいにボタンを押すのではなく、出口の前に立てば運転手が気付いて、ドアを開けてくれるというシステムも理解した。そして難なく目的のバス停で降りることができた。

春先の北海道のような、砂が多くて埃っぽい北京の町をゴロゴロの付いた荷物を引きずりながら歩くこと10分。ようやく目的の宿に無事着くことができた。

チェックイン時に「パスポート」と言われたので渡すと、「しばらくたったら取りに来い」と言われ、さっそく部屋に連れて行かれた。「俺のパスポート大丈夫か?」と心配になりながらも言われたとおり部屋に向かった。ちなみに宿泊費は6人部屋で1ベット一泊65元でした。

部屋はホームページで見たよりも暗くて、結構古い。しかもロッカーにはカギが付いていない。「これは失敗した」とこのユースに予約したことを後悔した。やはりユースで一番怖いのは盗難である。しかもここは発展途上国の中国である。パソコンを持ってきたことをとても後悔した。しかし今更他のユースに移る気力もないのでベットの手すりにワイヤーロックで荷物をしっかり固定し、ロッカーは使わないことにした。(最終的には清潔、親切、安全、場所よしと4拍子そろったいいユースという結論に至りました)

その部屋は今のところ私一人だけで、ベットのシーツは綺麗だった。すこし横になって今までの疲れを癒し、パスポートを預けたままだったことに気付き、慌てて取りに行った。中国では外国人を泊めると公安に書類を提出しなければならないらしく、そのための書類を書くために預かったとのことであった。その書類の控えをもらったが丁寧な字で自分の名前が漢字で書かれていたので、すこし感動した。

宿の周囲を散歩した。もともとこの宿は胡同(フートン)と呼ばれる昔ながらの町並みが残っている所にあり、下町情緒がたっぷり残っている。日本も昭和30年頃はこんな感じだったのかなーと思いながら、あちこち歩いた。

17時頃になったので早めに夕食を取ろうと、店のウインドウに写真入りのメニューが貼ってあった食堂に入った。一番でかい写真で紹介されていた羊肉泡モウ(食に莫と書きます)を注文した。鶏ガラのスープに羊の肉とパンの生地をちぎって入れたものが入っていた。羊の肉はまあまあだがパンの生地をちぎったやつがまずい。隣のテーブルでは店員がまかない料理としてラーメンと肉まんを食べていた。そちらの方がよっぽど美味しそうだった。

その店の近くにスーパーがあったので行ってみた。かごが汚いのが気になるが、品揃えはけっこう豊富だ。不安なので若干高いがコカコーラ社製のミネラルウォーター(それでも1元)、のむヨーグルト(3.9元)とエッグロールという薄いクッキー生地を丸く巻いて焼いた日本でもあるお菓子(4.5元)を買った。
 
いったん宿に戻って休憩した後、地球の歩き方にのっていた「一承茶舎」にお茶を飲みに行くことにした。暗い夜道を歩くこと20分、路地裏のすこし分りづらい所に店はあった。客は誰もおらず、店はとてもひっそりとしていて入るのをためらったが、せっかくここまで来たのだからと思い切って入ってみた。

店内はインテリアに凝っており立派なソファーとクッションが置いてあった。お湯を注ぐと花が開く工芸茶(25元)とすこし小腹が空いていたので、香港で経験した飲茶の感覚で、メニューの写真を見て春巻きを輪切りにしたもの(30元)を頼んだ。そしたらショウガ味のポポロンみたいな小さなお菓子がたくさん出てきた。「大きさが写真とぜんぜん違うやん」「これが30元もするのか!」「ぼったくりだ!」とちょっと腹が立った。

せっかく頼んだのですこしでも元を取ろうと、中国での飲茶を楽しむことにした。店内は私と18歳くらいの女の子の店員しかいない。これは日本で今回の旅行に向けてすこしだけ勉強した中国語を試す絶好の機会だと思い、思い切ってその店員に「お嬢さん、お湯を下さい(小姐、清給我开水:シャオジェ、チンゲイヤオカイシュン)」ときちんと四声の抑揚を付けて言ってみた。まず「小姐」と言ったところで、その店員はきちんと「hai」と返事をした。返事は日本語と同じなんだな-と感心した。(しかし、後からネットで調べたら中国語で「hai」と返事する習慣は無いらしいので、もしかしたらこの女の子は日本語を勉強していたのかもしれない)

私の中国語の発音が可笑しかったのだろう、すこしニヤッとしながらもちゃんとお湯を持ってきてくれた。中国人と中国語で意思疎通できたことが楽しくなってきたので、もう2杯お湯を頼んで、最後に「チンジエジャン(お会計お願いします)」と中国語で言って会計を済ませ、その店を後にした。

宿に戻って、「どうせ誰もいないし」と思いパンツ一丁になって、部屋に付いているシャワールームに入ってシャワーを浴びていたら、新しい客が部屋に入ってくる音がした。その客が部屋を出るまでシャワールームでなりを潜めて待ち、部屋を出たところで急いで自分のベットに戻り、ズボンをはいた。

新しい客は韓国人と思われる女の子だった。しかも一人だという。今夜はこの子と二人きりで寝ることになりそうだ。「今からシャワー浴びる?」と聞いたら「Yes」というから、「じゃあしばらくの間、外でビール飲んでくるね」と気を使って部屋を出て、近くのバーでビール二杯飲んだら85元も取られた。宿泊費よりも高い!やはり中国では青島ビールが一番安いし、旨いのでこれから青島ビールを飲もうと堅く心に誓った。

すこしウキウキしながら部屋に戻るとその女の子はおらず、結局部屋に戻ってきたのは夜中の3時くらいだった。俺を警戒したのかな?